真夏の暑さを避け、3ヶ月の短期決戦と決めて、 9月に活動を開始した。
目標は「とにかく正社員」として、職を得ることだ。
それ以外の目標はなかった。
「とにかく起業したい」と考えている人と、マインド的には大きな違いはないと思っていた。
94年の就職活動は、その後延々と続く氷河期の初期段階であった為、就活生は凍死ではなく凍傷状態の中での活動だったと思う。
日本経済は、必ず再びすぐに復活するという風潮で溢れていた。
その後10年、この同じ「日本経済復活」フレーズが毎年毎年、特に新年になると経済紙を飾ることになった。
ところで筆者は、就職活動をするにもやり方も何も分からなかった。
なにしろOB訪問、OG訪問という言葉の意味さえ分からず、周囲を苦笑させたのを今でもよく覚えている。
ESも、30代半ばに新卒事業を営む会社と関わりを持って初めて知った言葉だ。
94年当時はES(イーエス)と呼んでいたのだろうか?
スーツを買い(どうやって買ったのか覚えていない)、ネクタイの結び方をようやく覚えた。
ビジネスバックもないので、文房具屋で売っている書類入れ用の 取っ手付きのケースファイルを買って代用した。
平気で白いソックスもはいていたような気もする。
まあ、いいか。
身なりは一応整ったが、肝心の求人がどこにあるのか分からない。
大学の就職課に頼る気もなかった。
筆者が頼ったのは、当時リクルートで出版していた就職雑誌「週刊ビーイング」の新卒採用ページだった。
新卒特集号が発行された週だとなんとなく嬉しかった。
「世の中には、なんてこんなに新卒者向けの求人があるのだろう。」と、真面目に有難がっていた。
「就職活動といっても何も新しいことはない。求人誌でアルバイトを探すのと一緒だ。」と思い、履歴書を書き始めた。
履歴書セットはコンビニで買ったもの。
手書きで書き始めると、すぐ書き損じる。
書き直しの連続。
「履歴書は、ワープロ打ちはできないんだ。手書きで丁寧に書いたものは必ず相手に伝わる。」と真剣に考えていた(今では全く思わないが)。
あまりに書き損じるものだから、コンビニを回って履歴書セットを買い占めた。
誤字・脱字もなくどうにか完成すると、履歴書に空欄がやたらに目立つことに気がついた。
コンビニで売っている履歴書のフォーマットは、学歴・職歴欄の段落が長い。
新卒には職歴がないので、やたらに余裕がある。
転職者向けのレイアウトだった。
履歴書セットに付いていた長40の白い封筒に、挨拶文と一緒に履歴書を無理やり折り曲げて郵送していた。
しばらくして、大学の購買部に売っている履歴書は自己PR欄が大きく、もっと自分をアピールできることが分かった。
よし、大学で売っている履歴書を使おう!
封筒も別売りの角2封筒に入れれば、履歴書を折りたたまなくて済むと気がついた。
「おぉ!進歩しているな、オレ! 」、と。
就活生が誰でも知っている初歩の初歩すら知らなかった筆者は、アルバイトを探すのと全く同列で就職活動をした。
というか、就職活動ではなく、アルバイト探しの延長上にあったので、正しくは就職活動ではない。
「就職活動はしなかった」が正しい表現であり、しっくりとくる。
そして10月には、面接依頼の連絡が数社届くようになった。
(つづく)
取っ手付きのケースファイル (こんなんの)