「私をあごで使う人はこれまでいなかったし、これからもいないでしょう。」
有名女優よろしく、筆者はそんな気分になった。
社会人になって1年弱、異動先の部署で筆者は初めて自信を持った。
僅かながらの自信という土台を基礎に、筆者の心の中に自由の掘立小屋を建てることができた。
異動してあっという間に小屋が建つなんて!
なんと素晴らしい!
の、はずだった。
グリム童話の「三匹の子豚」のように、即席の小屋はオオカミに吹き飛ばされてしまう運命にあった。
筆者が子供の頃に読んだ「三匹の子豚」は、オオカミに家を吹き飛ばされても、他の兄弟の家に逃げ込むストーリーだった。
19世紀のオリジナルは、家を吹き飛ばされた子豚は捕まって、オオカミに食べられる話になっているそうだ。
グリム童話は残酷だ。
筆者もオオカミさんに食べられる。
の、ような結末となる。
筆者の場合は、残酷だが喜劇のエッセンスもあった。
異動先の上司はE課長だった。
社会人になって2人目の上司は女性となった。
筆者のキャリアで、後にも先にも唯一の女性上司だ。
新入社員で入社した筆者より後に、中途の経験者採用で入社してきた。
筆者の上司になった時は、E課長は入社半年ぐらい経過していた。
A社長、B副社長、C営業部長とも旧知の仲で、過去に同じ会社で働いたことのある人だった。
当時、ご年齢は35歳ぐらいで、おひとり様だった。
E課長が入社し初めてお会いした時、誰かに似ていると筆者は思った。
誰だったけかな?
うーん。
子供の頃にTVでご尊顔を拝したような。
あ、そうだ。
誰ではない。
なぜなら、人ではない。
たいへん失礼ながら(筆者は今も昔も失礼な奴なのだ)、ウルトラ怪獣の人気者だ。
怪獣というより星人。
三面怪人ダダだ。
ダダ。
ダダ。
書くのはタダなのでもう一丁、ダダ。
姿勢をタダして、ダダ。
本当にごめんなさい、E課長。
ダダなんて。
我ながらしつこいなw
ダダなんて失礼なことを書いてしまったので、ダダ課長を持ち上げておこう。
子供の頃より筆者の頭の中では、怪獣はバカ、星人は利口と区別されている。
怪獣は恐竜並みの脳の大きさで、力任せにビルを壊すか、野蛮な火を口から吐くぐらいだ。
星人の知能は地球人より遥かに高く、超能力を持ち、高等戦術でスマートにウルトラマンと戦う。
E課長は頭がよかった。
さらに、星人だから人間と同じ人だ。
ん、ダダの別名は三面怪人?
おしまいに「人」と付いているので、人には変わりない。
オオカミさんだったら獣(けもの)だ。
ダダは人気キャラで、ウルトラマンのシリーズに何度も登場している。
E課長も、きっと人気者に違いない!
当時、目標は明らかに結婚だったE課長。
仕事がテンパると、何の脈絡もなく疲れた声で、「私は結婚します」と口に出していた。
異性にも人気者だっだのだろう。
誰もお相手のことを聞く勇気はなかったが。
さて、一通りE課長の素晴らしい面も書かせて頂いたので、話を進めよう。
E課長と筆者の関係が拗れていく話というか、E課長からの壮絶なパワハラに約10ヶ月間襲われる話である。
本当に壮絶だった。
当時は、「〇〇ハラスメント」という言葉が、まだまだ一般的ではなかった。
1995年に日本で公開された映画「ディスクロージャー」。
この映画で、「セクシャルハラスメント」という単語が、初めて国内で一般的に知られたと思う。
マイケル・ダグラスとデミ・ムーアの人気俳優の共演だったこともあり、映画は話題になった。
「コンプライアンス」という単語が日本経済新聞の記事にポツポツ載り始めたのが、90年代の最後の年ぐらいだ。
これから書く話は1996年の出来事。
人も会社もオフィスでやりたい放題、ハラスメントには無頓着な時代の最後の頃だ。
筆者も当時は、「パワーハラスメント」という言葉は無論知らなかった。
そんな時代の話である。
(つづく)
ダダのフィギュアはちょっと欲しい!