ナポレオン・ボナパルトは『革命騒ぎの宝くじを最後に引き当てた男』と称された。
流行り、ブーム、熱狂、騒ぎといったものには潮目があり、得する人とそうでない人が必ず現れる。
流行りには、それを終わらせる最終消費者もつきものだ。
例えば、大学生の間で流行っていたものが、高校生の間で流行り始めたら、それは一転カッコ悪いものと認知されてブームは終焉を迎える。
ファッションの類のものなら、最終消費者であっても流行りに乗ったご本人達はそれでハッピーだろうし、カッコ悪いと気が付いたら止めればいい。
これが働き方の流行りとなると、個人の生活や人生そのものに関わり、迂闊に飛びつくと簡単に止めることができない。
かつて、自由な働き方をする人をフリーターと呼び、その後に非正規雇用となった人材がいい例だろう。
この国は、いつの時代も安価な労働力を提供してくれる人材を産み出すのが上手だ。
プロフェッショナルなフリーエージェントやフリーランスとは違うけれども、普通のアルバイトをフリーターと呼んで、一部の労働市場に必要とされた。
フリーターを使って得した人もいれば、フリーターをやって損をした人もいた。
いつの間にか高くそびえた正規雇用との壁の前で、フリーターを止めることができない最終消費者もいた。
「フリーターって、いい歳してアルバイトしている人のことですよね」と、身近な誰かが教えてあげればよかった。
そして今、働き方の流行りといえば副業(複業)で、日本人は本業の勤務時間外にも副業をする働き者となった。
流行りのもう一つは働き方改革で、労働時間の短縮と柔軟な働き方の制度の導入が、半ば政府主導で進められている。
今ではもうすっかり忘れ去られてる感のある”プレミアムフライデー”は、政府主導の象徴だ。
何はともあれ、本業の拘束は時間的にも空間的にも緩くなり、その分を副業に充てるという選択肢が1つ増えた。
20代や30代、これから社会に出ていく人材には、”副業のある”キャリアを構築するのもいいと思う。
大企業でも中小でもベンチャーであっても、給与所得者ならどこまで行ってもサラリーマンの範疇には変わりない。
それならば、半独立的な副業狙いで、働き方改革の制度が厚い大手ホワイト企業に足が向いてもいい。
20代はプロフェッショナルになれるように本業に精を出し、30代は個人として副業にも挑戦してみる。
偏屈な成長マインドと雑務で疲弊したベンチャー人材よりも、健全にキャリアを構築し成長できるかもしれない。
キャリア・プランに副業の二文字を加え、上手に利用したいところだ。
しかし、副業できる環境の獲得は、新たな格差を産み出すのではないかと予想する。
副業人材の受け入れが企業側に進まない理由の一つは、副業人材の使い勝手が今一つ悪いからだ。
例えば、本業と副業は勤務時間が重複し、副業先の会議や打ち合わせに参加できない。
それを単純に解決しようとすると、より柔軟な働き方の制度がある企業に本業で在籍ということになる。
そのようなわけで、本業の雇用契約先はホワイト、副業の業務委託先はブラックというポートフォリオが形成されそうだ。
フレックスや週休3日制のある企業で正社員になれば、働き方改革とは縁が薄い企業の副業人材として活躍できそうだ。
働き方改革のお陰で副業の環境が整ったとしても、汎用性のあるプロフェッショナル人材でなければ、もちろん副業は難しい。
「余の辞書に副業も転職の文字もない」
一社専任とばかりに同じ組織に長年どっぷり浸かっていたら、副業どころか転職も苦労する。
企業側の副業容認のメリットとして、社員の収入の補填、転職や再就職の支援が上位に挙げられていることを見逃してはいけない。
従業員にとっては、これはあまり楽しくない副業の動機だろう。
企業にとっては、終身雇用崩壊後のバッファー装置として副業があるかのようだ。
時を同じくして、上場企業は早期退職者の募集を加速している。
働き方改革のコンベアは、まるで副業容認とリストラを両輪に稼働しているようだ。
安易にそのコンベアに乗り、副業の最終消費者になってはいけない。
足元の本業と自分のキャリアを見つめ直し、速やかに行動に移したい。
本業あっての副業だ。
いつものオフィスから抜け出した金曜日。
レジュメに興味を持ってくれた企業を訪ることが、本当のプレミアムフライデーなのかもしれない。