「給料いくら貰っているのですか?」
あなたは部下からこのように訊ねられたことがあるだろうか?
筆者は、1度聞かれたことがある。
2歳年下のその部下は、その時ものすごい形相だった。
つね日ごろ、自分の給料の不満を定期的にぶちまけていた。
その米系外資企業は、創業者のカルチャーを宗教チックなまでに大切にする企業だった。
メディカル関連の企業だったので、「患者さんのために」を企業理念に掲げていた。
また、社員をファミリーとみなし、家族的な雰囲気を大切にしていた。
そのため、本国アメリカでも非上場を貫いていた。
メディカル業界のため売り上げは安定し、社員を大切にしていたので、のんびりとした社風だった。
問題は、会社に評価・報酬制度が設計されていなかったことだった。
社員は家族で成果は皆で分け合うというスタンスで、昇給は全員一律が基本だった。
それゆえ、やってもやらなくても同じ評価となった。
そのような職場のあるあるなのだが、サボろうとする人間も少なくなかった。
やってもやらなくても同じなので、優秀な人材の見切りは早かった。
狭い業界なので、在籍している人材の質の社外の評判は良くなかった。
採用も、業界外の未経験者の採用に頼らざるを得ないこともあり、前職での給与を引っ張っているので、外資のメディカル業界の割には給与が低かった。
その部下もそのような安い人材だった。
「自分は5年間頑張ってきたのに、ちっとも給料が上がらない。それに比べ、2年前に同じ業界から高い給料で上司になった貴方はなんだ。給料を教えろ」と。
ぶっちゃけると、当時の筆者と彼は年収ベースで倍近く違った。
その部下は、給料安い、給料安い、給料安いの輪唱を一人でやるようになった。
マネージャーになりたい、マネージャーになりたい、マネージャーになりたいと連呼もした。
普通なら転職すればすぐに解決できる問題なのに、彼には他社でやっていく自信がなかった。
そのころ彼は40歳を回ったばかりだったが、「会社にしがみつくしかない」とも、ボソリと時々本音を言っていた。
筆者は上司として彼にできることはやったと思う。
彼は念願のマネージャーになった。
そこで彼が最初にやったことは、人事に「私の給料を上げてください」という直談判だった。
会社は「ご希望には添えかねる」と、彼の要求を突き返した。
彼は攻撃的になり、いろいろあった。
ほどなくして、筆者は会社を去ることになった。
筆者の最終出社日に彼からメールを貰った。
「私はあなたと違って患者様のために頑張ってきました」と。
空いた口が塞がらなかった。
彼の噂は今でも時折聞く。
自分の部門での採用は、自分より能力がある人間は採らないと傍からは見えるようだ。
「カルチャーに合わない」と理由をつけて不採用にしているそうだ。
ご本人は、「会社にしがみつくしかない」からであろう。
彼も今や50歳手前の年齢となった。
既にオワコンなのだろうか。
会社の定年までしがみつくしかないのだろうか。
40歳を超えてからのキャリア、そして、会社のカルチャーって何なのだろうか。
40代をエクスキューズという守りの10年にしてはダメだ。
まもなく50歳を迎える筆者は、自分のこの10年を振り返り、そのように感じている。