上司の教科書的な書籍は山ほどあるが、良い上司の条件はたった一つだと筆者は考えている。
“自分に余裕がある”ことが良い上司の唯一の条件だ。
筆者は過去3回、前任のマネージャーがダメダメで、そのリプレイスとして入社したことがある。
部門が炎上してしまい、その火消役として緊急登板で入社したことが何と3回もあるのだ。
コロナ禍の緊急事態で赤く染まってしまったような部門にパラシュートで急降下したのだった。
筆者が入社した時には降格処分となったその3人はまだ在籍していた。
そこで観察した3人の共通点は余裕の無さだった。
まず、ポジションに見合うマネジメント能力が著しく欠如していたので余裕が無かった。
そのポジションにありつけたのが不思議ではあったが、皆さん面接の達人ということが分かった。
面接受けの良い人は後から必ず苦労するものだ。
面接のテクニックなど入社後には何の役にも立たないことをもっと多くの人は理解すべきだ。
面接はせいぜい60分1セットだが(筆者が経験した最長の面接は120分1セットだ)、入社後は上司、部下、同僚、その他の利害関係者と長い時間を過ごすことになり、面接だけの達人ではボロが必ず表面化してしまう。
面接の達人は往々にして表面を引っ掻いたようなスキルしか身に着けてこなかったので、マネジメントどころか担当部門の業務すら十分に理解できていない場合も多い。
別の言い方をすれば、ただミーハーに千鳥足でキャリアを渡り歩き、地道な努力を怠ってきた人たちだ。
それゆえに、日常業務に四苦八苦している部下からの改善要求の突き上げで、さらに余裕を無くてしまうのだ。
彼ら彼女らができることといったら、「ワークライフバランスを大切にしましょう」と日々の残業で疲弊している部下に一斉メールを打つことぐらいがせいぜいだ。
そして何といっても、ダメなマネージャーは私生活にも余裕がない。
私生活に何らかの問題を抱えている人たちで、心の奥底が蝕まれている。
本人の問題、家族の問題、過去の消せない傷、漂う負け犬感、そして将来への不安。
筆者が入社した直後に、「私は病んでいます」と公言した人もいた。
人生の先が見えてしまっているのに、今が見えない人生を歩んでいる人ほど余裕のない人はいないものだ。
自分に余裕のない人は、赤の他人の上に立ってはいけない。
転職して入社した当日の午後か翌朝には部下の心配ができる余裕のある人だけが、良い上司になることができるのだ。