(④からの続き)
矢ガモ社長の耳にせっせと社内の悪口や噂話を運んでくる社員のサークルが形成された。
それはいつしか“裏組織”と呼ばれ、まるで独裁国家の秘密警察のようで、社内は異常なほど神経を尖らせた。
仕事ができない暇で恥知らずの人間が群れるとロクなことがない。
しかし、矢ガモ社長は裏組織を自分に忠誠があり信頼できると優遇した。
会社の飲み会の席でも発言に気を抜くことができなかった。
矢ガモ社長に飲み会の様子をレポートする人間が隠れているからだ。
「酔っぱらって発言がヤバくなるとマズイので確認させてください。あなたは裏組織の関係者ですか???」
酒が入る前に席の隣に事前確認する人まで出てくるお笑い企業となった。
矢ガモ社長にとって自分の地位を脅かしそうな人物、つまり人望のある人、アイディアのある人、本当に会社を良くしようと考えている人はマークした。
不幸にも矢ガモ社長に眼をつけられた社員は、“社員は家族”の企業カルチャーに相応しくない人物として、裏組織に悪口をばらまかれた。
それが矢ガモ社長の常套手段だった。
時にはひどい人格攻撃まであったが、裏組織の集めた悪口が誤った情報であっても、矢ガモ社長は気にしなかった。
ダイバーシティ経営を謳う矢ガモ社長のもと、女性の活躍は裏組織で発揮された。
なんと、口が堅くては務まらない職務であるはずの人事や秘書から悪口が社内に流布された。
裏組織のトップの座を射止めた人物は社内で“女帝”のような権勢を誇り、表の組織で部長にまで昇進することができた。
「社員はいつも何かに怯えているようだ」と、企業の評判口コミサイトにそう書き込まれた。
■ 矢ガモ社長の出世術:自分で手は汚さない。悪口をばらまく者たちを利用する。
矢ガモ社長は裏組織を駆使して社内をズタズタにした。
まずは、上司と部下の関係を切り裂いた。
矢ガモ社長は、「あなたの部下たちとの面談結果をお伝えします。部下たちはあなたに辟易しています。うんざりしています」と執拗にフィードバックをし、不幸にも睨まれたマネージャーたちはすっかり萎縮した。
どんなに些細でくだらない事でも、誇張され問題視された。
例えば、「あなたは成城石井で毎日買い物をしていると自慢しているそうですね。あなたの部下はそんな贅沢なことができないのに!」と、呆れてあんぐり口を開けて聞くしかないようなことなのだ。
「最寄り駅の成城石井で買い物をしていると話しただけで、なにも自慢したわけではありません。そもそもこれは問題になるのですか?」と聞き返せば、「うちは“社員は家族”の企業文化ですから、不平等を助長するような発言はよくありません」と、矢ガモ社長はさらに訳の分からない回答に終始した。
矢ガモ社長との個人面談で味を占めた部下は、「私は社長と繋がっていますから」と直属の上司をあからさまに牽制するようになり、緊張状態となった。
マネージャーの一人が突然コロっと態度を変えて、「矢ガモさんのおっしゃる通りです!その通りです!」と発言すると、“ああコイツも部下のチクリでヤラレたな”と、会議の出席者は皆そう感じ取った。
矢ガモ社長は悪口をばらまく社員たちの意見を社内大多数の意見とし、社内に恐怖心を植え付けて、逆らう者の気力は奪われた。
何か特別な意図が無く、単純に社内のコミュニケーションを良くしようとした社員にも矢ガモ社長は牙をむいた。
下衆の勘繰りで、自分の地位を脅かそうとしているのではないかと疑った。
何よりも社長である自分より目立つことは許せなかった。
ちょっとでも出る杭は徹底的に潰された。
「社内の誰も信用できない」と、社員はボソリ、ボソリと呟いた。
社内は“見ざる、聞かざる、言わざる”となり、組織横断的な横の連携も分断された。
■ 矢ガモ社長の出世術:自分なしに組織が動かない状況を作る。
(⑥につづく)
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