初めて「これだ!」と 筆者は思った。
社会人になってもうすぐ丸1年、藁をも掴む心境だった筆者は、バックオフィス業務 に手応えを感じた。
なんといっても、筆者は業務スピードが圧倒的に速かった。
実務を行う為の業務マニュアルなど社内に存在しなかったので、体学問でメモを取りながらやるしかなかった。
勤務先はただの中小企業(失礼ながらこう書かせて頂く)、仕方あるまい。
当然のことながら、業務に当たるべく社内が整備されている訳はない。
「より安い料金」を顧客に提供する為に、社内は目に見えない多くのコストが転がっていた。
しかし、経営者の目に見えるコストは人件費だけだ。
薄利多売のビジネスで、しかも中小企業のバッタ屋。
安くコキ使われるのは、常に従業員なのだ。
そこから抜け出す術を知らないと、ずっと安く買い叩かれて働かなければならない。
会社が悪いのでも、勤務態度が悪いのでも、業務スキルが劣っているのではない。
いち早く気が付くべきだ。
筆者は自分の頭の中で、社内の業務を全て繋げ、工程の設計図を作り上げることができた。
担当業務を直ちに整流化して取り掛かれた。
圧倒的な呑み込みの速さと、業務のスピード感とそのセンス。
正に「これだ!」だった。
さらに筆者が自信を深めたのは、周りを見渡した時だ。
筆者が簡単にできることを、周りが簡単にできないことに気が付いた。
他の人間には難しいことが、筆者には全く難しくなかった。
また、筆者は業務プロセスの最短経路を頭の中でナビできた。
そこから圧倒的なスピードが生まれた。
大袈裟に言えば、周りが止まって見えた。
まるで、機動戦士ガンダムの赤い彗星だ。
シャア専用ザクを自由自在に操縦し、戦艦を次々に駆逐するようなイメージ。
気分がよかった。
筆者が飯を喰っていく術として、バックオフィス業務に異動になったのは運が良かった。
当時、バックオフィス業務は見事に女性の仕事というバイアスがあった。
営業サポート、業務サポートといった、〇〇サポートの類の範疇に入れられていた。
「総合職」と「一般職」なら、一般職採用。
筆者の1社目もバックオフィスは全員女性だった。
男と競合しない男の筆者には、見事にブルーオーシャン。
当時はブルーオーシャンもレッドオーシャンという言葉はなかったが。
男女雇用機会均等法で、性別の差別がない 「総合職」と「一般職」と呼んだが、20年以上前は見事に、その「総合職」と「一般職」で男女が分かれていた。
筆者はそれを逆手に取らせてもらった格好だ。
「会社でどんな仕事しているの?」と聞かれれば、「業務ですね」と答えた。
「女性の仕事か」とはっきり口に出して反応する人もいれば、微妙な表情を顔に浮かべてくれた人もいた。
筆者は気にしなかった。
当時の筆者は、将来の出世や大金を得るような夢すら見ることも到底なかった。
ただ、社会で飯を喰って行きたかっただけだ。
ただ単純にそれだけだ。
男に生まれてしまったので、結婚したら配偶者に飯を喰わしてもらう訳にはいかなかった。
また、筆者に芸術的才能でもあったなら、玉村豊男氏のように「社会の余白を生きていく」といった選択肢もあっただろう。
残念ながら筆者は、「大勢のただのサラリーマン」で社会に出てしまった。
大勢の中で安心という心理は、今も当時も筆者にはない。
運よく社会人2年目で、大勢の中でも競合が少ない端に身を置けた。
狙っていた訳ではなく、運よくそうなった。
異動させた会社としては、端に置いておこうという腹積もりだったのかもではあるが。
私をあごで使う人はこれまでいなかったし、これからもいないでしょう。( No man bosses me around, and no man ever will. )
女優シビル・シェパードの名言のよろしく、筆者はいい気分になった。
筆者は、兎にも角にも「自由」を一番大切にしている。
ようやく、筆者なりの「自由」の掘立小屋が造れた。
その筆者の大切な小屋を、ウルトラ怪獣が破壊しにやってきた。
(つづく)
シビル・シェパードといえば、『こちらブルームーン探偵社』。カッコいいこと言うなあ。