2年か3年前の会社の帰り、数名で田町の焼き鳥屋さんに寄った。
普通の焼き鳥屋さんだった。
予約してくれた人が、「このお店はカルロス・ゴーンのお気に入りなのよ」と教えてくれた。
「へー。そうなんだ」ぐらいの返事をして、すぐに別の話題となった。
会計を済ませ、お店を出る支度をしていた時、ゆとり世代一期生を自負する若者が尋ねてきた。
「ところで、カルロス・ゴーンって誰ですか?」と。
「え、君知らないの?」とびっくり仰天させられた。
そして今回のご本人の逮捕劇。
ゴーン氏関連で驚いたのは、田町の焼き鳥屋でのゆとり君の発言以来だった。
ご本人の逮捕それ自体は、横に一旦置いておく。
筆者が気になったのは、「お約束ですな。で、なんなの?」と思う、いつもの報道だ。
いわゆる「街の声」を拾った報道だ。
庶民の代表の(ように分かり易い)サラリーマンが行きかう駅前や、ゴーン氏ゆかりの地に繰り出して、「街の声」を拾う。
マスコミとしては楽に取材でき、庶民にすり寄る簡単な方法なのだろう。
マイクを向けた先に期待する模範解答は、言わずもがなだ。
いわゆる勧善懲悪の世界。
筆者は、ニュース番組を観ていて街の声になると、リモコンのスイッチをオフにする習慣がある。
NHKのニュース番組は、「これに対して街の声は~」とナレーションが入るので、テレビをオフにするありがたいキューとなっている。
もし貴方が、これから多くの人とは違う何か別の人になろうとするなら、「街の声」の一人になってはいけない。
その他大勢に埋もれて生きるのが嫌なら、「街の声」以上のことを考えなければいけない。
「街の声」は、お約束の分かりやすいものに編集されているのだろうが、それにしてもだ。
閉鎖工場の地元、「身勝手で人情がない人だと思っていた。」
既に日産を退職した人、「完全に裏切られた。」
日産ショールームを訪れた人、「『ワンマン』や『独裁者』というイメージ。」
日産株を1000株持っている人、「持ち株は今でも利益が多少出るのですぐに売りたい。」
もし貴方が就活生や社会人3年未満なら、このくらいの事しか言えない先輩社会人にはならぬことだ。
もし貴方が40代50代で生涯現役を目指すなら、大勢と違うアプローチで物事を考えたい。
筆者はゴーン氏の肩を持つつもりはない。
彼は、その他大勢に埋もれて生きるのが嫌で、その秀でた才能を自ら切磋琢磨し、経営者として成功したのでないのかな。
ゴーン氏が到達した成功の頂のその先、今の問題はそこだろう。
「街の声」は、その他大勢の声。
安心を越えた一種の集団ヒステリー。
そこから這い上がろう。
人によっては、つらい作業になるかもしれないけど。
幾つの年齢になっても、キャリア形成にとっても、とても大切なものだ。
その他大勢から抜け出す。
その孤独と勇気と興奮のプロセスの中で生きていこう。
「ルネッサンス 再生への挑戦」が発売されたのが2001年秋。
筆者が初めて買った経営者の本だった。