今年の夏はセミの鳴き声を待ち焦がれた。
梅雨の時期が長すぎたのだ。
そいえば、『香川照之の昆虫すごいぜ!』の8時間目もセミの授業だった。
真冬になっても君の名前をずっと忘れずにいたいよ、セミの皆さん。
あの単調で大きな鳴き声は屋外で聴くから風情があっていいのだけれども、室内であれをやられたら煩くてたまったものではない。
セミが室内で鳴いたら本当にウザイだけなのだが、オフィスで鳴くセミも幾度となく目撃してきた。
それは、元〇〇(大手や有名企業名)の社名をやたら連呼する人たちだ。
ツクツクボーシツクツクボーシ
ミーンミンミンミン
カナカナカナカナ
シャンシャンシャン
ジリジリジリジリ
元〇〇の社名を連呼する人の寿命は、ひと夏も生きられないセミの成虫同様に短い。
大手企業に長年在籍し、中小のベンチャーや外資に転職してきた人にあるあるのパターンだ。
とりわけオッサンに多い。
元社名や元肩書きは、転職先では意味がないことに気がついたほうがいい。
自分が何処から来た何者であるか ━ 新しい職場の人たちは関心がないことを、いち早く気がついた人のほうが転職先では成功できる。
オッサンのプライドは、これを受け入れるのが難しい場合があるのかもしれない。
転職先は、これから何をしてどう会社やチームに貢献するのかに興味がある。
直属の部下なら、差し迫った窮地を助けてくれるのか、もっと楽に仕事をさせてくれるのかが関心事なので、元〇〇の社名を一生懸命披露されたところで何の足しにもならない。
大企業に長年在籍した人が転職すると役に立たないと筆者が最初に感じたのは、筆者が30歳の時だった。
日系大手に新卒から25年お勤めの男性が、外資の立ち上げ部署にやってきた時だった。
デスクに座って、ミーンミンミンミンと元社名を連呼しているだけの人だった。
「ボールペンを買うのにも自分でやらなければないない。前の会社ではやってくれた人がいたのに」と、その人は入社当初はイライラしていた。
「立ち上げ部署だから何でも自分でやんなきゃダメだろうし、そんなもんだろう」と、冷たく上司から反応されて次第に意気消沈していった。
ミーンミンミンミンの元社名も次第に消えてきた頃、「何をどうしたら分からないのです」と、セミからカゲロウに変身してしまった。
そうして1年も持たずに会社からクビを宣告されて、静かに去っていった。
それからも、「〇〇ではこうだった」、「〇〇ではこうしていた」「〇〇ではこれがあった」「〇〇ではやってくれた」と、元社名を転職先で連呼している人に幾度となくオフィスでお会いした。
皆さん成功はできていなかった。
過去に生きていたからだ。
夏の終わりに、焦げたアスファルトの上でひっくり返って死んでいるセミを見ると、元〇〇な人たちは今ごろどうしているのだろうかと、ちょっと寂しく振り返ってしまう。