人間という生物は、他の生き物と何ら変わりなく環境の奴隷であるので、自分を変えたいのであるならば、住む場所や付き合う人を変えろとは、実に見事なアドバイスだと思う。
自分を変えたいと何処かで望んでいても、多くの人は住む場所も付き合う人も変えないままなのだろうけれども、それが格差社会だよと教えてくれた人もいた。
どんな人でもある程度の年齢になったら、自らを変えることはできないのは明白だ。
しかし、自分の人生に折り合いをつける年齢になる前に、自分を変えることを止めてしまうのはなぜだろうか。
そして、一生懸命に他人を変えようとするのはなぜなのだろうか。
自分を変えるより他人を変えることは遥かに難易度が高いので、挑戦意欲が湧くのだろうか。
そのようなことは決してあるまい。
「谷川君も他人から変わったと言われるようになりなさい」と仰せの人は過去それなりの人数存在したが、大きなお世話だった。
なぜなら、心からアドバイスしている人は誰一人としていないことが分かっていたからだ。
要は、全員がその時に筆者が所属していた組織の人間で、筆者に何らかの影響を与えようとしていた利害関係者だった。
「谷川は私が変えてみせると上に約束した」と、自分への見返りも含めて、あっけらかんと筆者に明かした上司もいた。
社内政治が好きな人だった。
社内政治をやり過ぎたのか、今では行方知らずだが。
それぞれの企業を退職した後、それぞれいた「谷川を変える」、「谷川よ変われ」と仰せの人物の誰一人として、筆者の矯正のフォローアップをしてくれることは勿論無かった。
ただ、過去のその時々で、筆者を変えることにメリットがあった人は確かにいた。
組織不適合者の筆者を矯正することは、それなりに価値があったのだろう。
「頼むお願いだから変わってくれ！」と、身内から涙ながらにお願いされたことは一度もない身なので、赤の他人からお願いされても「承知しました。で、あなたにとって何のメリットがあるのですか？お答えください」と訊ねるだけなのだ。
とにもかくにも、自分自身を変えてやろうと真剣に取り組んでいる人は、真面目に応援したくなる。
２０代半ばを過ぎると、ほんのひと握りの人間だけが、この実現不可能のようなことに挑戦しようとするのだ。
それでは、自分を変えようと努力している過程で、重要な一つのアドバイスがある。
自分の過去の失敗や悪評をほじくり返す人たちとの繋がりは、絶対に遮断することだ。
そのような人物は、変わろうとしている人間の修業に邪魔なノイズしか発しない。
昔の会社の人や旧友であっても遠慮はいらないから、きっぱりと決別するべきだ。
そうしないと、例えるなら、足を洗って堅気になったギャングが昔の仲間に道を引き戻される映画のようになってしまう。
貴方が変わることを人は恐れているのだ。
なぜならば、自分は変われないから貴方に変わってもらっては困るのだ。
筆者にも何度も経験がある。
最近では不味い肉をたらふく食べさせられて、筆者の昔の評判やら失敗やらをずっと語ってくれた人がいた。
可哀そうに、その人自身は変わることができなかったのだ。
残りの人生の時間を考えると、誰と飯を食べてどんな話をするのかはとても大切だ。
付き合うのはもういいだろう。
