(③からの続き)
「あなたの上司の〇〇さんの悪口を教えて欲しい」と、普段は会話することがない社長から対面でこうお願いされたら、社員はいきなり面食らって困惑するだろう。
「上司の〇〇さんには日々お世話になってます。先日も仕事で助けてもらって…」
正直な気持ちを口にした社員に、「いや、私の知りたいことはそんなことではなく、彼の悪口です」と、社長がムキになったら社員はさらに混乱するだろう。
そして、「君のことは悪いようにしないから」とそそのかす。
「いや~、上司は良い人です」と社員は苦笑いするのが精いっぱいだ。
矢ガモ社長との個別面談を終えた社員は慌てて上司の携帯を鳴らし、事の始終を報告する。
上司は愕然としながら報告を受けとり、最後に部下は「あの社長は大丈夫ですか?」と携帯を切る。
矢ガモ社長は、毎日のように入れ代わり社員との個別面談を繰り返し、社内は緊張し、そして空気は淀んでいった。
矢ガモ社長が気にいらないマネージャーがいる部署の社員には重点的に個別面談が繰り返えされた。
「また今月も社長との個別面談があると人事から連絡がありました。先々月に実施したばかりなのに。社長って暇なんですかねぇ」と社員は笑った。
個別面談はあまりにもレベル低い内容なので、有能な人材は骨抜きになった。
組織はトップのレベルを超えることはない。
そして、矢ガモ社長の話に乗ってしまう同じ穴のムジナのような低いレベルの人間もいた。
どんな取るに足らない話でも矢ガモ社長は歓迎した。
「そういえば、先月久しぶり朝まで飲んでいたそうで、オフィスで“オレ酒臭くないか?”って聞かれたことがありました。」
上司との何気ない会話を伝えただけで、矢ガモ社長は笑顔になった。
「それって、飲酒して仕事をしていたのと同じことだよね!」
「教えてくれてありがとう。それでは、あの人とあの人が社内でよく話をしているのを見かけますが、何を話しているのか調べて私に教えてくれませんか?もちろん、君のことは悪いようには扱わないから」と、矢ガモ社長はエスカレートした。
■ 矢ガモ社長の出世術:人の弱みを握るための情報収集なら手段を選ばない。
上司のことを快く思ってない社員には、矢ガモ社長との個別面談は絶好の場だった。
“上司よりオレのほうが優秀だ”
“上司は私に仕事を押し付けてばかりいる”
“オレも昇進したい”
部下たちの心の隙間に矢ガモ社長はうまくつけ込んだ。
社内の誰と誰が仲がいいのか、誰と誰が対立しているのかをよく見極め、矢ガモ社長は巧みに人の僻みや嫉妬を操作した。
レベルの低い人間同士はお互いに共鳴できた。
矢ガモ社長のために社内のあれこれくだらない話を仕入れた社員は、社長の腹心のような気分になった。
矢ガモ社長も自分のために尽力している社員が嬉しかった。
自分に自信がない矢ガモ社長にとって、自分だけに顔を向けている社員は信用できた。
第三者からすると、地を這うレベルの社長室でのおぞましい光景なのだが、彼らはひどく真剣だった。
社長を喜ばせたい社員からのバイアスだらけの二次情報を矢ガモ社長は鵜呑みにした。
これを知った社内の絶望感は想像に難しくないと思う。
社内にチクリ文化が形成されたが、それこそ矢ガモ社長が望んだことだった。
「ご本人が裏から手を回して生き残ってきた人だからね。そうなるよ」と、矢ガモ社長を古くから知る人物はこう評した。
「社員は家族のように大切」とする企業カルチャーも個別面談でさらに歪められた。
社長に睨まれた人物は、家族からのはみ出しものの烙印を押され、執拗に責められた。
その一方で、矢ガモ社長は多様性を認めるダイバーシティ経営をPR会社に吹聴した。
ただの嘘つきなのだが、自分に酔ってしまう人物なので気がつきようもなかった。
■ 矢ガモ社長の出世術:嫉妬のもつ負のエネルギーを最大限に利用する。
(⑤につづく)
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